人にはぞれぞれの人生があり、実に多様なバックグラウンドが存在する。中には「昔、いじめを受けていた」「小さいころから病気で苦しんでいる」といった方もいるだろう。
しかし、その両方、「幼いころから病気に苦しみ、かつイジメを受けていた人」は、稀有な存在であろう。
ましてや、それが大学のミスコン候補者であれば尚更である。
2022年の筑波大学ミスコンテストに参加している新岡杏菜(にいおかあんな)さんは、過去のいじめや自身の難病を告白しながら、ミスコン候補者として活動を続けている。
なぜ、彼女はミスコンに参加するのか? その想いを聞いた。
新岡杏菜(にいおかあんな)
2022年度筑波大学ミスコンテスト(つくばコレクション2022)エントリーNo.1。人文・文化学群比較文化学類1年。国指定の難病「骨形成不全症」にかかり、幼少時よりイジメを受ける。高校時代からは文筆活動を始め、今年8月には自身初の書籍執筆も経験した。
自分は“イレギュラー”な存在
ーミスコンの活動が始まってかなり時間が経ちましたが、実際に活動してみてどうでしょうか?
私自身、ミスコンにはイレギュラーな存在かなと思っていたので、ここまで応援してくださる方の反響が見れると思わなくて。
ありがたい言葉をいただけることが多くて、すごく楽しいですね。
ーミスコン候補者の方はSNSが大変そうなイメージがあるのですが、新岡さんご自身はいかがでしょうか?
私の場合は「しんどい」と思うことは実は少なくて。
元々ミスコン以外の活動でSNS発信は慣れていましたし、ミスコンの活動に関しては自分の過去の経験を活かして伝えたいことを伝えてきた感じなので。
ーミスコン以外の活動というと?
作家として活動しています。現在も、Twitterをメインに創作活動をしています。
ー作家の活動はいつごろから始められたんですか?
高校3年生からなので、約2年ほどですね。今まではTwitterメインで活動していたんですけど、昨年、小説のアンソロジー集の執筆にお誘いをいただいて、今年の8月にちょうど本を1冊出版させていただきました。
ーすごいですね! では、今の学部を選んだのも文学系の学部だからですか?
最初はシンプルな文学部がある大学の進学を考えていたんですけど、高校1年生のときの担任の先生が「新岡さんはそこで留まるタマじゃないし、もっと広い視点を持って研究して欲しいから、総合的に文学を学べる大学に行った方がいいんじゃない?」っていうアドバイスをくださって。
なので、筑波大学の比較文化学類に決めました。
ー文学自体は高校時代からお好きだったんですか?
そうですね。小学校の5年生ぐらいから文学は突き詰めていました。それがだんだん具体化していったのが高校時代ですね。
ー文学を好きになったきっかけは何かあったんでしょうか?
私、実は元々本が大嫌いで(笑)
ーあれ? そうなんですか?(笑)
そうなんですよ(笑)けど、昔イジメにあっていて、けっこう自分の殻に閉じこもりがちだったところを、母が「本を読んだ方がいいよ」っていうふうに言ってくれて。
それで選んだ本が『人間失格』でした。
ー太宰治の?
はい。タイトルのインパクト強くて、「なんか自分みたいだな」って思っちゃったんですよ(笑)
それで「ちょっと読んでみよう」って思って読んだら、内容だったり、太宰が伝えようとした内容にシンパシーを感じて。
そこから「あ、文学も捨てたもんじゃないな」っていうふうに思って(笑)だんだんのめり込んでいった感じですね。
自分の好きな人の気持ちを否定したくなかった
ーミスコン活動を始めたきっかけをお伺いしてもいいですか?
元々すごく自己肯定感が低くて、昔イジメられていたときに見た目を否定されてきたので、「自分なんて」という思考に陥ることが多かったんですよ。
けど、高校ではありがたいことに親友と呼べる子や、今現在結婚を約束している方に出会うことができました。その人たちは「杏菜のこういうところが素敵だよ」って言ってくれる素敵な人ばかりで。
けど、当時の私は彼らが褒めてくれる言葉を「いや、私はそうじゃないから」と、否定的に処理してしまっていたんですよね。
ただ、やっぱり、自分の大好きな人たちの言葉なので否定したくないし、それを否定するのって悲しいことだって気づきました。
そこから、大好きな人たちが言ってくれた「素敵だよ」っていう言葉を信じたいと思って、「挑戦しよう」という気持ちでミスコンへの応募は決めました。
ー新岡さんのTwitterを拝見したときに、「骨形成不全症」という単語が目に入りました。
「骨形成不全症」というのは国で指定されている難病なんですけど、簡単に言うと「骨がもろくて骨の形成が上手くいかない」っていう病気です。身長があまり伸びなかったり、骨の形が変わったりします。
私の場合は骨が何本か足りないっていう感じなんですけど、骨の形がちょっと違ったりもするので、思春期の過程を過ごす間は人に見られることをすごく意識したり、言葉で攻撃を受けたことも多かったですね。
ーかなり辛い経験もされていた中で「それでも負けない」というような心の強さを感じました。
矛盾してるんですけど、見た目の批判だったり、イジメによる否定が強かったので、自己肯定感は低かったんですよね。
ただ、それに対して反骨精神がなかったわけではなくて、むしろ「歯向かってやろう」ぐらいの意地の強さはありました。
ネガティブと反骨精神の狭間で揺れることは多かったですね。
自分らしく活動する
ーミスコン活動を通してのやりがいや楽しさはどんなところでしょうか?
やりがいを感じたのはわりと活動の後半に入ってからですね。
やっぱり私は見た目的にも経歴的にも、あまりミスらしくないというか、コンテストに出ている人らしくないなと思うことが大きくて。
だったら、自分のために出たものではあるけれど「同じように悩んでいる人に声を届けたいな」と思って、自分の思いをつづり始めたのがちょうど後半ぐらいです。
ー実際に反響はありましたか?
そこからコメントやリプライとかで、「勇気をもらった」とか「頑張ってみようって思えました」とかの言葉をかけてくださる人がすごく増えて、思った以上に自分の気持ちや伝えたいことが届いていたんだなぁと実感しました。
あとは、この活動を通して気づいたんですけど、私って現代ルッキズムがすごく嫌いなんだなって。
ーというと?
もちろん、一般的に「かわいい」とされている子はたくさんいるし、そういう評価があるっていうのはすごくわかります。例えば顔の黄金比とか、身長と体重の差がこの程度だったら痩せてたりスタイルがいいみたいな。
そういう「美の定義」みたいなことが公に言われることが多いと思うんですけど、「なんでその型にハマっていないと美しくないの?」っていう、ルッキズムに対する批判的な気持ちは芽生えてきて。
なので、「美の定義」の型にハマる必要はないし、自分自身の美しさを磨いてほしいなとはミスコン活動を通して思いました。
本当に、自分の武器を使って自分らしく輝いてほしいなって思いますね。
「どうして悩んでいる側が動かないといけないのか」
ー最後に今後の目標についてお聞かせください。
ミスコン活動が終わったら、作家としてもう少し頑張っていきたいので、作家活動に力を入れるのと同時に、自分が直面していた悩みに対する反響が大きかったことを踏まえて活動したいなと。
ー具体的には?
今の世の中って「悩みがあれば相談してね」っていう流れだと思うんですよ。でも、私は「どうして悩んでいる側が動かないといけないのかな」っていうのがすごく疑問で。
やっぱり、悩んでいる人って悩むことだけで忙しいというか、それだけで苦しい中で、「なんで救われるために自分から動かなきゃいけないの?」って思うんですよね。
ー確かにそうかもしれません。
私が声を発したことで「勇気をもらった」っていう人がいるように、手を差し伸べる側が動かないと意味ないんじゃないかなというか。本当に「誰かを救いたい」って思うんだったら、「救いたい」って思う側が動くべきなんじゃないかなって思うんです。
なので、作家としてもう少し自分の声を発信したいのと、それとは別で文学を舞台にするプロジェクトも今動かそうとしている段階なので、その方面でも作品を通じて、自分の意思を届けていきたいなと思います。
取材・文:ワダハルキ