「Dine(ダイン)」はメッセージを完全に省き、お店の選定から予約までアプリが自動で行ってくれる、マッチングアプリの中でも異色のマッチングアプリだ。実際に私も過去に何度か使ってみたが、本当にメッセージを一通も送らずに出会うことができてしまった。
そんなDineの生みの親が、株式会社Mrk&Co CEOの上條景介氏だ。
学生時代に開設したブログ「がんばれ、生協の白石さん!」は書籍化され、発行部数約100万部の大ヒットを記録。新卒で入社したDeNAでは大ヒットゲーム「海賊トレジャー」を手掛けるなど、華々しいキャリアを歩んできた新進気鋭の起業家である。
上條氏は「出会いの、最短距離」をDineのコンセプトとして掲げているが、それは果たしてどういうことなのか。今回、上條氏に取材を行い、その内容を前編と後編の2本立てでお届けする。
上條景介(かみじょうけいすけ)
株式会社Mrk&Co共同創業者CEO。東京農工大学工学部卒業。大学在学中にブログ「がんばれ、生協の白石さん!」を開設し、その後書籍化。発行部数約100万部の大ヒットを記録する。2008年にDeNAに入社し、ソーシャルゲーム事業を担当。2015年に独立し、株式会社Mrk&Coを立ち上げる。
Dineってどんなアプリ?
ーDine(ダイン)とはどういったマッチングアプリなのでしょうか?
上條社長(以下、上條):Dine(ダイン)はキャッチフレーズを「出会いの、最短距離」としておりまして、マッチングアプリの中でも最短距離で誰かと会える、ということを目標としているアプリです。
具体的にはメッセージのやり取りを無くして、その時間を1時間でも2時間でも一緒にお食事をして、お相手のことを知る、ということをコンセプトとしています。
ー「メッセージを省く」というコンセプトは他のマッチングアプリと大きく異なりますが、どういった経緯で考えられたんでしょうか?
上條:Dineは元々私が前職でカナダに赴任しているときに作ったアプリなんですけども、当時はTinder(ティンダー)が世の中に出てきたばかりのころで、これから普及するだろう、という時期でした。
ただ、私は英語はネイティブではないですし、Tinderを使って女性とマッチしてメッセージのやり取りをしても、上手に会話をするのが難しかったんですよね。
特に、アメリカやカナダだと「いかにユーモラスなメッセージを送れるか」で頭の良さを見られてしまうんで、けっこう難易度が高くて難しいなと思っていました。
ー確かに、欧米圏は「ユーモアがあってなんぼ」みたいなイメージがありますね。
上條:ただ、メッセージが苦手だからといって直接会ったときに会話ができないかと言えば、そんなことはないんですよ。
なので、「どうすればこの苦手なメッセージを省いて、自分の本当の魅力を伝えられるのか」って考えたときに「目的を持ったらいいんじゃないか」と思いまして。
ー「目的」というと?
上條:一般的なマッチングアプリって、表向きは「恋活目的」とか「婚活目的」ってなってると思うんですけど、マッチした時点では「何をどうするか」が何も決まっていないんですよ。
けど、マッチした時点で「食事に行く」っていう「目的」が決まっていれば、あとはそれを達成するためのツールとしてアプリを使えばいいんですね。
なので、「あらかじめ目的を決める」っていうのが有効になると思って、Dineは作りました。
「落とし穴」は作らない
ーDineにはたくさんのお店が掲載されていますけど、どこも素敵なお店ばかりですよね。
上條:ありがとうございます。
女性からすると「知らない人と会う」ってリスクが大きいんですよ。男性はメリットの方が大きいんですけど、女性は「怖い」「あんまり行きたくない」っていう気持ちの方がやっぱり大きいと。
そんな中で勇気を出して行ってみて「男性もダメだったし、お店もダメだったわ…」ってなると、最悪の気分になっちゃうじゃないですか?(笑)
ー確かにそうですね(笑)
上條:けど、逆にお店が良ければ「男性は普通だったけど、お店が良かったから行って良かった~」って、良い思い出になる。
かつ、良いお店であれば、会う前でも「最悪、男性が悪くてもこのお店行きたかったし、いいか」って、女性の腰も軽くなるわけですよ。
そこの気持ちを後押しできるっていう意味で、Dineのお店選びは重要視していますね。
ーやっぱりマッチングアプリのデートでは「いかに良いお店を選べるか」は大事ですね。
上條:ただ、勘違いしてほしくないのは、「いいお店=高いお店」ではないんですよ。一人2,000円のお店でも20,000円のお店でも、いいお店もあれば悪いお店もありますし。
僕が言いたいのは、「同じ4,000円のお店に行くのだとしても、女性が喜ぶお店に行きましょうよ」ってことです。「お店はすごい汚いんだけど、料理はめちゃくちゃ美味しい」みたいな、通向けのお店じゃなくて、「初対面の男女が和やかに過ごせる快適なお店に行きましょうよ」と。
ーただ、一方で「自分たちでお店を選べない」というもどかしさもあるのではないでしょうか?
上條:もちろんです。ただ、そこには明確な回答があって、なんで自分たちでお店選びをさせないかというと、ほとんどの男性は自分でお店選びができないからです。
これは20代の頃の自分もそうだったんですけど、男性って女性と比較するとお店の知識が圧倒的に少ないんですよね。そして、そんな男性がお店を選んでしまうと、デートが良くない方向に進むことが多い。
なので、「何も考えずにウチの中から選んどけば失敗しないよ」っていう状態を作りたくて、お店選びは厳選していますね。さらに言えば、Dineに掲載するお店は僕らの主観で選んでいるわけではなく、リアルタイムで常に点数化することで、良いお店しか残らないようになっています。
ーそこも利用者としては非常に嬉しいポイントですね。
上條:あとは、そもそも会う前から「このお店行きたくない」で断られたら、「どうしたらいいの?」って感じになっちゃうじゃないですか(笑)
これはDineのコンセプトでもある「出会いの最短距離」にも含んでいることなんですけど、「落とし穴を作らない」っていうことを僕はすごく重要視しているんですよね。
要は、恋愛において一番重要なのはその人の本質的な魅力なのであって、自分が知らなかった作法や意識していなかった部分で勝手に振るい落とされないようにしたかったんですよ。
ー確かに、私もマッチングアプリでやり取りしていて、急に連絡が途切れたことが何度かありました…(笑)
上條:理由わからないですよね(笑)男性も女性もそうですけど、ちょっとでも気に入らないことがあれば理由言わずにフェードアウトするんで、一生分からないんですよね。
リリース当初から改善の繰り返し
ー「Dine」は日本よりも前にアメリカとカナダでリリースされていますが、当時の「Dine」はどのようなアプリだったんでしょうか?
上條:カナダで最初にリリースしてから日本でリリースするまでに2年ぐらい空いているので、いろいろ改善はしましたね。
主要コンセプトである「相手と食事をする」という部分は変わっていないんですけども、そこに至るまでのアプローチの仕方が全然違っています。
ー具体的にはどういった部分が変わったんでしょうか?
上條:例えば、一番初めにリリースしたときは、お店の写真がバーンと出てきてたんですよね。「ここのお店に行きたいのはこの人ですよ」みたいなアプローチでした。
人の写真が出てくる今とは、逆ですね。
ー海外ではレストランへクーポンの営業周りもされていたとお伺いしました。
上條:そうですね(笑)「どうやったらもっとみんながデートに行きやすくなるかな」って考えたときに、「最初のドリンク一杯無料にすれば行きやすくなるんじゃないかな」って思ったんですけど、結果的には上手くはいきませんでしたね。
まあ確かに、ドリンク一杯が無料になったからといってデートに行きやすくはならないですよね(笑)
ーなるほど(笑)営業と言うと、飛び込み営業ですよね?
上條:はい。飲食店の飛び込み営業って難しいんですよね。
というのも、飲食店の場合だと責任者がお店にいないんですよ。だからお店に言って「オーナー」は?って聞くと「オーナーは夕方7時ぐらいに来るかなぁ…?」みたいな(笑)
「じゃあ、もう一回来ます!」っていうことをひたすらやってましたね。
ーその他に、過去にあったDineのサービスでは、例えばどんなものがあったんでしょうか?
上條:たくさんあるんですけど、大きいものでは「Dine Black」っていう結婚相談所をやっていましたね。
ーそれはなぜやめられてしまったんでしょうか?
上條:「Dine Black」は実際にやってみて「今の人たちは出会いの数には困っていないな」って思ったんですよね。
「いい出会いがない」って言っている人も本質的には出会いに困っているわけではなくて、どちらかと言えば個々人の意識のすり合わせの方が重要だなと。
ーと言いますと?
上條:要は、一方が「良い」と思っていても、もう一方が「良い」って思っていることが少ないんですよね。で、そういう場合、「良い」と思っている人がマッチングアプリでいう「減点対象になる行動」をしていることがほとんどで。
そうなったときに「あ、一生マッチしないな」って思ったんですよね(笑)
ー確かに、それはよくあるかもしれませんね。過去にはオフラインのイベントもいくつか開催されていたと思うんですが、どんなイベントを開催されていたんでしょうか?
上條:過去には「Yakiniku Dine」や「Chinese Dine」というイベントを開催しました。「Yakiniku Dine」で言えば、参加者はハイスぺ中のハイスぺを厳選して9対9で行ったので、めちゃくちゃ楽しい合コンみたいな感じでしたね(笑)
モテ男とモテ女しかいない、みたいな(笑)
ーめちゃくちゃ楽しそうですね(笑)今後もそういったオフラインのイベントは開催される予定ですか?
上條:そういう意味で言うと、オフラインイベントの代わりとして、2019年頃から恵比寿に「Snack Dine」っていうお店を持っていたんですが、コロナで閉店してしまったんですよね。
ただ、そこの評判がすごく良かったので、今でも月1回ぐらい不定期に開催しています。
Ryo
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インタビュー後編はこちら
取材・文:ワダハルキ